大橋 奈央2022.02.04.

飽くなき探求心で
唯一無二を目指す西田酒造店

株式会社西田酒造店

美味しいを更新し続ける酒

—— 常に進化し続けている西田酒造ですが、西田さんはどのような思いでお酒造りや商品開発に取り組んでいるのですか。

西田 そうですね。私は、いつ飲んでも「やっぱり美味しいね」と思ってもらえるよう「去年より今年。今年より来年」というモットーのもと、取り組んでいます。

たとえば、今まで経験したことのないような美味しい料理を食べたとき、その料理はすごく美味しいものだと頭にインプットされますよね。それで後日、同じ料理を美味しいという記憶のまま食べると、「あれ?もっと美味しかったはず」という印象を受けることはありませんか。これはきっと、味自体は前に食べたものと同じなんですけど、記憶のイメージが強烈で、1回目の印象を超えることができなかったんですね。人間のファーストインプレッションってすごく強いから。

「やっぱり美味しいね」という印象にするためには、1回目よりも2回目の方がちょっとだけ美味しくなっていないとだめなんですよ。だから私は「去年より今年。今年より来年」という意識で日本酒と向き合っていますし、そのためには、設備投資をして日々ブラッシュアップしていくことが大切だと思っています。

—— たしかに人間の味覚って思い出が増長して、2倍も3倍も美味しいイメージで記憶に残っている気がします。

西田 そうそう。「あれ?もうちょっと旨くなかったっけ」って思うことがありますよね(笑)だから「やっぱり美味しいね」の、この「やっぱり」が必要なんですよ。杜氏の安達はどうすれば田酒が今よりも美味しくなるか本当によく考えてくれていて。アイディアもたくさん持っているので、いつも意見交換しながら試行錯誤しています。
—— 今回、酒質向上のための設備投資としてサタケの新型醸造精米機をご導入いただきましたが、何が決め手となったのでしょうか。

西田 実はもともと扁平精米をしていたんです。といっても、完全な扁平ではなくて、球形に比べたらちょっと平べったいって感じのものです。効果が表れるかというとそうでもなくて。だけど、原形になるだけでもタンパク値が減るのはわかっていたので、興味はありました。それで、2019年の冬にサタケの扁平と原形のサンプルを見たら、とにかくきれいで。本当に米の歩留まりが良くてきれいな酒になるなら面白いと思い導入しました。

実際に使ってみた感想としては、精米歩合55%から65%の米を使うのが一番いいところですかね。それ以下にしちゃうと割れちゃうので。あとは、山田錦のような線状心白には扁平があってるんですけど、華想いとかは原形の方が良いですね。米の心白とか特性をみて球形か扁平・原形か決めるといいと思います。

それから、うちはしていないんだけど、他の蔵で扁平の精米歩合75%や80%磨きで、比較的安い価格の商品を販売していて。扁平精米だから歩留まりがいいでしょ。さらにタンパク質の含有でいうと、球形の精米歩合60%と同等だから美味しくないわけがないんだよね。そういう使い方もすごく正しいし賢いなって思います。可能性は無限だなと。
—— 最後に、西田さんが目指す日本酒について教えてください。

西田 目指すというか、究極の最後の話になるんですけど、目指すものがないんですよ。それは簡単で、去年より今年、今年より来年って、常に美味しいものを目指していくってことなんですよね。つまり、常に途中段階で、永遠に未完成。完成形はないということですね。それが、いつ飲んでも「やっぱり美味しいね」に繋がるわけですから。

—— 今の積み重ねが未来に繋がるということですね。

西田 そうですね。ただ、酒質でいうと、甘すぎず辛すぎず、プラスマイナスゼロという比重を目指しています。だから辛くてもプラス1。甘くてもマイナス2。尚且つ、アミノ酸がこのぐらいっていう数字があるんですけど、理想は常に料理とセットで考えられる「晩酌酒」というイメージが私は強いですね。やっぱり美味しい料理と酒って、合わせるとどちらも引き上げてくれるじゃないですか。だから、料理に負けないアミノ酸、旨味成分をきちんと表現していきたいと思っています。甘味よりは旨味。この理想の味を追求し続けていきます。

-Epilogue-

「設備投資」と聞くと、どうしても機械化を連想するが、決して機械が酒を造っているわけではない。酒質向上のための効率化の先には、西田氏や杜氏をはじめ蔵人たちが徹底的に追求した工程で、手間暇かかる丁寧な手作業により、酒を醸している。田酒はまさに、西田酒造店の威厳にかけて、丹精込めて造られているのである。職人技と最先端技術の融合。日本酒の新たな可能性がまた一つ広がった。西田酒造店の未来とぬくもりを感じる酒に、きっと誰もが心奪われるはずだ。
PROFILE
株式会社西田酒造店
代表者 取締役社長 西田 司
所在地 青森県青森市油川大浜46
創業 1878年
事業内容 日本酒の醸造および販売
HP http://www.densyu.co.jp/information.html/