大橋 奈央2022.11.7

道なき道を切り開き
業界に一石を投じる新澤醸造店

株式会社新澤醸造店 様

究極の1杯を求めて

—— とにかく先進的な取り組みをされている新澤社長ですが、何かきっかけがあったのですか。それとも、もともとこういう思考をお持ちだったのですか。

新澤 きっかけは2つありまして。まず1つ目が、21歳のときに大病をわずらい、余命が短いと宣告されたことです。当時、主治医から「あなたは誰よりも短い人生だから大事に過ごしてね」と言われまして。だから、僕にとって人生とは、自分の知識や経験を若い世代へと繋いでいくことでしかない、と。

僕たちみたいなベテランと呼ばれる年代になると、陰口たたかれるだけで、誰からも注意されなくなるので、若いうちに外に出て、いっぱい怒られたほうが勉強になるし人生の糧になるんですよね。ルールなんてあってないようなものですし、ルールを守れば正しいかというとそうじゃない。「私が正しいのに世の中の人はなんで分かってくれないの」ってならないためにも、うちの従業員たちには、とにかく経験や自分で選択できる環境を与えたいと思っています。

もう1つは、僕が働きたい職場ってどんなとこだろう、自分で考えたことを実践できる会社ってどこだろうって考えたときに、大手企業でも外資企業でもなく、ベンチャー企業だという結論に辿り着きました。でも、ベンチャー企業は意外と専門家がいないという弱点もあるので、全員が何かに特化している集団をつくりたいと。それが、今の新澤醸造店なのかもしれません。

それと、震災のときに痛感したんですけど、世の中に普通って言葉は存在しないんですよね。僕らって自然にはかなわないわけで。でも、そんなに弱くはないぞって想いも強くて。「災害があったからあの蔵はだめになったよね」ではなく「災害とか何かあるたびに、あそこの蔵は強くなってるから逆に嫌だな~」って思わせるようにしようと。限られた人生のなかで、最大限にやれることを挑戦したいですね。
—— 常に固定概念に捉われず、新たな挑戦をされている新澤社長ですが、精米歩合1%未満のお酒が発売されたときはとても衝撃的でした!

新澤 できない理由を並べるのは簡単なんですよ。そこをどう攻略するか、これが大切です。うちは1本30万円以上する高価格帯の商品がありますけど、お米をたくさん削っているから価格を高く設定しているわけではありません。

たとえば、精米歩合7%の商品。これは麹も掛米もすべて7%のお米を使用しています。高精白になると麹ができないとよく言われますが、10年以上研究していると、技術ができて、甘い麹がつくれるようになって、グルコースも1.5倍ぐらい出せるから、3万とか6万とかの価格設定にするわけです。つまり、技術が違うからとか、精米歩合が違うからとかではなく「味が違うから値段が違うんだ」と。こういう売り方って意外と難しいんです。

でも、一方で、高価格帯のものだけ造ればいいかというと、そうではない。誰にでも手に取ってもらいやすい低価格帯のお酒は、いわば新澤醸造店の土台となるわけですから、これらの商品を真剣に造ることはとても大切です。レギュラー商品が売れているおかげで、原価が下がり、高価格帯のお酒が売れると利益が出るので、設備投資に回せる。そうすると自ずと酒質が向上すると。だから、どちらの商品も本気で造っています。より美味しいお酒になるようにと。
—— 改めて新澤醸造店さんのお酒が美味しい理由がわかりました。最後に、新澤社長の今後の目標を教えてください。

新澤 僕たちは常に挑戦したいことで溢れています。だから、まずはどれから取り組もうかなって、そんなことばかり考えていますね。それこそ、設備投資でいったら、もう5年後までやること決まっていますしね。

あと、うちは現状維持ってことはまずなくて。1年間で上層部は改善点を300件、部下たちは5Sを絡めて500件ほど案を出して改善すると。つまり、年間800件ぐらい社内のルールが変わるんですよ。だから、1年経ったら別会社ですよね(笑)僕ひとりだと800件も改善できないですから、やっぱりチームで動くということが大切ですね。そのためにも、従業員たちには、常に自分で考えて選択する環境を今後も提供していきたいです。

浅野 新澤がよく「とにかくやってみなさい。できない理由を並べるのではなく、できる方法を探しなさい」っていうんですね。それも、できる方法も1つではなく、2つ3つとたくさん点を打ちなさいと。それがいつか線になって繋がるからと。これは、私だけでなく、従業員のみんながとても大切にしているモットーです。

新澤 僕の意見からはじまる取り組みもあるけど、従業員たちの意見から動き出すこともたくさんあるんですよね。今あるルールを守るのではなく、ルールを作る側に来なさいと。うちの強みは、一人ひとりがしっかり自分の意思をもって働いているところでしょうね!

-Epilogue-

「究極の食中酒」「精米歩合1%未満」——。それまでの常識にとらわれることなく、自分の信念を貫き、道なき道を切り開いてきた新澤氏。わずかな違いも見落とさず、豊富な経験と巧みな精米技術によって米のポテンシャルを最大限に引き出す浅野氏。より美味しいお酒を醸すべく、研ぎ澄まされた感覚で日本酒と向き合う蔵人たち。生き物を相手に、ひとつとして同じ条件はないなかで、狙った味を引き出せるのは「最高峰のお酒を届けたい」と、日夜、努力を積み重ねた賜物である。「今の積み重ねが未来へとつながる。だから、変わり続けることが大切です」と熱く語る新澤氏の姿に、新澤醸造店の志と矜持を見ることができた。
PROFILE
株式会社新澤醸造店
代表者 代表取締役 新澤 巖夫
所在地 本 社 / 宮城県大崎市三本木北町 63
川崎蔵 / 宮城県柴田郡川崎町今宿小銀沢山 1-115
創業 1873年
事業内容 日本酒の醸造および販売
HP https://niizawa-brewery.co.jp/