大橋 奈央2022.11.7

道なき道を切り開き
業界に一石を投じる新澤醸造店

株式会社新澤醸造店 様

こだわる精米技術

—— 2008年にグループ会社の精米工場「ライスコーポレーション株式会社(代表取締役:浅野りつ)」を設立した新澤醸造店。これまでの歩みについて、浅野社長にお話を伺いました。

浅野 もともと新澤醸造店は、旧蔵の近くに倉庫を借りて自社精米に取り組んでいました。震災後は蔵が川崎町に移転したので、川崎蔵の敷地内にも精米機を導入。しばらくは、2拠点で3台の精米機が稼働していました。しかし、精米拠点を複数構えるということは、人件費と輸送費が2倍かかる。無駄を省くためにも、精米センターを造ろうということで、契約農家さんが多くいる大崎市に精米工場を構えることにしました。

2018年に地盤改良に着手し、精米機を2台設置。その後、旧蔵近くで稼働していた精米機を2台持ってきて、2020年7月にサタケの扁平精米ができる精米機を2台追加。現在は、球形精米用が4台、扁平精米用が2台の、計6台が稼働しています。

—— 精米工場を建設する段階では、扁平精米の導入は考えていなかったとのことですが、何がきっかけで、今回採用されたのでしょうか。

浅野 すべては新澤からの1本の電話から始まったんですよ。醸造学会で扁平精米という技術と出会った新澤は、当時、すでに扁平・原形精米での酒造りに取り組んでいた、広島県の今田酒造本店(代表銘柄「富久長」)の「HENPEI」「GENKEI」を取り寄せまして。それを飲んだあと、すぐに電話がかかってきました。「扁平精米ができるサタケの精米機を買う」って。もう即決でしたね(笑)
—— 精米歩合1%未満まで究めた新澤社長が次に注目されたのが、扁平精米だったのですね。

新澤 米の削り方以外はすべて同じスペックの「HENPEI」「GENKEI」「富久長(球形精米)」を飲み比べたんですけど、圧倒的に違うんですね。中盤からの後味のキレの差が凄いあると。僕ら造り手は、飲んだあとのキレをチェックするんです。扁平精米のお酒は飲んだあとにきれいに消えるんじゃなくて、本当に消えるんですよ。飲んだあとにパッと。

—— 実際に導入されて、酒質は変わりましたか。

いやー。圧倒的に美味しくなりましたよ。うちの商品でいうと、精米歩合60~50%は、10勝0敗で扁平精米でしょうね。もちろん、球形精米の60%と扁平精米の60%だったら、扁平精米のほうが精米時間がかかるので、コスト面はいろいろありますけど、でもそれをも凌駕するぐらい、酒質が変わりました。

僕たちは、高精白精米をしているから、米をきれいに削ったあとの後切れの良さを知っているわけですね。もちろん、精米歩合1%未満や7%のお酒を飲んだあとのパッとした切れ方と扁平精米60%のお酒が一緒だとは言わないですけど、ニュアンスが似ているんです。つまり、間違いなくきれいに削れているってことだし、麹の力価が出ないっていうことは、まさに高精白になっているってことなんですよね。

だから、本気でお酒をきれいに造りたいと思っている人にとっては、すごくいい武器ですよね。言い方が悪いですが、ボタン一つで酒質が上がるんだったら、こんなに楽な技術向上はないですもん。アミノ酸が低いから劣化しにくい傾向もあるでしょうしね。
—— 精米機を導入されたのは、2020年。ちょうど新型コロナウイルスが蔓延し、日本が疲弊していた時期です。そのような状況下での設備投資は、相当な覚悟が必要だったのではないですか。

新澤 これも語弊があるかもしれませんが、品質をお金で買えるなんて凄いことですよね。だから若い蔵元たちは、まず設備投資をすると。賢いですよね、それだけで品質が上がるわけですから。それと全く一緒ですね。サタケの扁平精米というのは。

もうこれは中毒なんですけどね。僕はただ美味しいお酒を造りたい、品質をあげたいと思っているから、そのための設備投資ならすると。それに、あの頃って、補助金絡み以外はみんな一斉に設備投資をやめたじゃないですか。だったら今がチャンスだよねって。僕、みんながやっていないことをするのが好きなんで(笑)

それと、精米工場を作れば、6台の精米機をひとりで回せるんです。そうすると、人件費が1/6になると。ということは、初めに6台一気に買ったほうが永遠に他社に勝てるわけですよ。ほかの酒蔵さんが3台4台と増やしている間に、僕たちは一歩先を行ける。だから、精米工場を作り、サタケの精米機も導入しました。

浅野 あとは、玄米のコンディションに合わせた精米ができるという点は、自社精米の強みですよね。委託精米の場合は、蔵元さんが手配したお米が届いて、オーダーの期限までに指定された精米歩合までお米を精米するのが通常です。でもうちは、契約農家さんから届いたお米の様子を見て、何%精米にするのがベストか判断することができます。

やっぱり相手は農産物なので、米の品種はもちろん、その年の生育状態によって、お米のポテンシャルは異なります。だから、精米歩合40%まで削る予定だったお米を、状態が少し良くないから、50%までにしようってことを判断し実行できるのが、うちの利点です。契約農家さんにも「こないだ納めてもらったお米、7%まで削ったからね」とか、「今年は40%でやめといたよ」って、直接フィードバックできるのはいいですね。農家さんの意識も高まりますし。

それと、普通はその年の仕込みの製造計画って、一度に立てると思うんですけど、うちは3か月先までしか立てないんです。年明けに在庫を見ながら計画を立てることができるのは、精米機をもっているからできることですね。在庫が余っていたら造らないし、足りなかったら造る。これができるのは大きいと思います。