大橋 奈央2022.02.21

震災という試練を乗り越え
復興を願い力強く歩む鈴木酒造店

株式会社鈴木酒造店 様

浪江町での新たな挑戦

—— 東日本大震災から10年という時を経て、再び浪江町に戻ってきた鈴木酒造ですが、道の駅なみえに酒蔵を構える際に、精米所も併設したいきさつを教えてください。

鈴木 浪江でつくるものづくり、特に食に関わる部分は、ここ浪江町で全て完結させたいという思いが町との共通認識でありました。実は、2014年に震災後はじめて浪江町で米づくりが再開されたとき、精米を引き受けてくれるところがなかったんですね。それぞれ事情は分かるんですが、農家さんたちは避難先から片道2時間もかけて浪江町に来て、米づくりに取り組んでいるのに、あまりにもひどいなって。だから、そのときに誓ったんです。浪江に蔵を構えるときは、絶対に精米機を入れると。

あとやっぱり、浪江町の米を使っていくのであれば、玄米からしっかり向き合いたいという思いがありました。浪江が位置する浜通りは、やませがたまにはいってくるんですね。そうすると、気温は上がらないし日照不足になるので、酒造りに使う米としてはかなり条件が悪くなってしまうんですよ。だから、米と向き合うためにも精米から自分たちで取り組みたいと考えていました。
—— なるほど。もともと浪江町では真吟精米をする予定だったのですか。

鈴木 実は震災前から真吟(扁平)精米に取り組んでいたんです。といっても、白米を蒸したときに少し平べったくなっていたという程度だけど(笑)過重にならないような磨き方を探っていくなかで、辿り着きました。ある程度、結果も出ていたので、ちゃんとした真吟精米で磨いた米で仕込んでみたいと思っていました。

また、真吟精米であれば、農家さんたちが大切に育てた米を無駄なく使うことができるうえに、磨かなくても(精米歩合が高くても)すっきりとした味を出せるので、土地柄を米と酒で表現するという観点からも、真吟精米に取り組むことは、自分たちの目指すものと合っていると思いました。
—— 実際にサタケの精米機で精米した真吟米はいかがでしたか。

鈴木 良かったですよ。実は試験精米を依頼したときにちょっと意地悪をしましてね(笑)米にとって条件の悪い6月に精米をお願いしたんです。気温が高くなってくる時期で、米が割れやすいだろうし、どんな白米になって戻ってくるかなと楽しみにしていたら、とにかくきれいな白米が手元に届いて。「ひょっとして無洗米でも行けるんじゃないか」ってくらいのきれいさで驚きましたね。これは、導入後の今も印象が変わらないです。

また、酒質の面でいうと、従来の球形精米で仕込んだ酒と真吟精米で仕込んだ酒とでは、アミノ酸が0.3も違うことに驚きました。浪江蔵では、すべて飯米の浪江産コシヒカリを使用しているのですが、真吟精米であれば、アミノ酸度を抑えることが可能なので、飯米でも十分きれいな味の酒を造れるという実感と手ごたえを感じましたね。

真吟精米は、今までのうちの酒とは異なる新しい酒、つまり浪江の新しい文化を発信していけると、そう確信しています。

※アミノ酸度の低い酒はすっきりとした味わいになりやすく、アミノ酸度の高い酒は芳醇でふくよかな味わいになりやすい。