大橋 奈央2020.08.23.

伝統を重んじ不易流行の精神で
挑戦を続ける新政酒造

新政酒造株式会社

磨かない米で大吟醸のような味わいを実現

—— 実際の使用感について、杜氏の植松誠人さんに感想を伺いました。

植松 サタケの精米機で扁平精米を行えば、お米のタンパク質が少なくなるのではと期待していたところ、期待以上の結果がでました。反対にお米が削れ過ぎてタンパク質が減ったことでお酒のアミノ酸も減少し、線の細いお酒になってしまったぐらい完璧に削れました。

今年発売された(2020年6月時点)新政の定番ラインアップ「No.6」や「カラーズ」シリーズなど、精米歩合65%と55%の全商品に扁平精米された酒米が使われています。なかでも低価格帯のカラーズシリーズ「エクリュ」は自信作です。
—— 新政では、一次精米を採用しているとのことですが。

植松 新政は雑味のないある程度綺麗なお酒を造りたいという想いがあります。そのためにはお米の胚芽部分を残さず精米する必要があります。胚芽は栄養素の塊のためお酒の雑味になり、酵母も元気になります。そうすると醪に行ったあとに酵母たちの抑えが効かなくなり、短期間でお酒が仕上がってしまうので、どうしても味が乗らない状態に陥ってしまいます。それらを防ぐためにも胚芽をきちんと取った方が良いということから一次精米を行い、胚芽部分を取り除いたのち、扁平精米にかけて精米歩合65%まで削り落としています。

無肥料で無農薬米を栽培している新政のお米は、どうしても収量が少なくなってしまうのですが、仲間や地域の方々が苦労して育てたお米だから1粒たりとも無駄なく品質の良い状態で効率的に削り、美味しいお酒を造りたい。そのためにも一次精米と扁平精米は欠かせない存在です。

※一次精米とは、醸造精米の前に、赤糠と胚芽を摩擦式精米で取り除くこと
—— 伝統的な醸造製法や自蔵発祥の最古の酵母、そして自社田での無農薬栽培など、見る人を魅了し続け、規格外な取り組みも敷衍と深耕により進めてきた佐藤さん。最後に、現在の夢を教えてください。

佐藤 まだ先の話ですが、ゆくゆくは鵜養産の無農薬米のみを使う小さな酒蔵を鵜養地区に造りたいと考えています。機械は冷蔵庫と絞り機と精米機だけで、木桶も麹蓋も秋田杉のみ使用。どこまでも地元の秋田県産にこだわります。最終的には、原料米の栽培過程から木桶工房、酒蔵見学など、日本酒が誕生する過程を楽しんでいただき、カフェや宿泊施設で鵜養の美しい景観を眺めながら地元の食材やお酒を心行くまで堪能していただけるそんな空間を、ここ鵜養地区に造りたいと考えています。

-Epilogue-

新政が世に送り出す1本のボトルには、誇りをもって新政の酒米を育てる地元農家の夢、命を削り魂を込めて米づくりと向き合う社員の想い、よりよいものを生み出そうと必死に食らいつく蔵人の意気、現場の主柱として新政イズムを踏襲し後輩育成に注力する植松氏の願い、影武者となり新政を支える者やさまざまな角度から新政と世界を繋ぐ者たちの念い、そして不易流行の精神で理想の日本酒造りへと邁進する佐藤氏の生き方など、たくさんの人の夢や想いが詰まっている。今後も新政は、短期的なヒット作ではなく、長く人々の記憶に残る1本を造り続けるだろう。
PROFILE
新政酒造株式会社
代表者 代表取締役社長 佐藤 祐輔
所在地 秋田県秋田市大町6丁目2番35号
創業 1852年
事業内容 日本酒の醸造および販売
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