大橋 奈央2020.08.23

伝統を重んじ不易流行の精神で
挑戦を続ける新政酒造

新政酒造株式会社 様

新政の酒米と挑戦

—— 秋田市内から車を走らせること約30分。風光明媚な風景が広がる鵜養地区で、青々とした新政の稲があたり一面に波打っていますが、この広大な土地で社員の皆さんが自ら、しかも無肥料無農薬で育てていると伺い、とても驚きました。

佐藤 生酛造りなど全ての添加物を除いて日本酒造りに取り組んでいた我々は、原料であるお米からも農薬を取り除き『フルオーガニック』にしたいと考えていました。でも残念ながら県内で無農薬米を栽培している農家がいなかったから、それなら自分たちでつくろうと2015 年にここ鵜養地区に自社田を購入しました。

鵜養地区は、耕作放棄地化が進んでいて、僕が初めて訪れたころは15 町歩程しか圃場に水が張られていなくてね。それに、寒くて湿気がこもりやすいし風通しも悪いから、米づくりに適した地形ではなかったけど、社員や地域の皆さんのおかげで、約5 年間で全量無農薬米に。今では約30 町歩(自社田は約15町歩)まで酒米の水田が拡大しました。(2020 年6 月時点)
—— 社員や地域の方々、 たくさんの方々の愛情を受けて新政の酒米は育っているのですね。ところで、 新政は以前から扁平精米 ( 真吟精米 ) を採用しているとのことですが、 秋田県産米の特長の一つであるタンパク質の含有量が多いことが関係しているのですか。

佐藤 そうですね。 秋田県産米は酒造好適米の代表である山田錦と比べてタンパク質の含有量が多くナーバスな一面があるため、 効率よくタンパク質を取り除ける扁平精米は秋田県産米に適した精米方法でした。

また、 日本酒の価格設定って、 精米歩合で価格が決まるような間違った認識が一般的に根付いていて。 例えば吟醸酒。 これは精米歩合 60%以下という基準がありますが、 基準値に達さずとも吟醸酒を上回る美味しい日本酒は存在します。 それなのに、 どれだけお米の栽培を頑張っても素材ではなく精米歩合だけで判断される。 価格だけ高くなって誤解されるのは嫌だから、 少なくとも磨き方だけは無駄が無いようにと早い段階から扁平精米を取り入れていました。
—— なるほど。以前から独自の方法で扁平精米に取り組まれていたということですが、今回、サタケの醸造精米機を採用されたいきさつを教えてください。

佐藤 既存精米機のロールの回転速度を落とすなど思考を凝らしましたが、求める基準の精米ができなくて、判然としない思いで扁平精米に取り組んでいました。そんなときにサタケが扁平精米用の新型醸造精米機を開発しているという一報が舞い込んできてね。そんなに削らなくても吟醸酒や大吟醸酒と同等のお酒が造れるうえに、原料や原料費を抑えることも可能だということで採用しました。