大橋 奈央2021.04.12

生涯をかけて日本酒の道を歩み
物事の神髄を見極める勝木氏の思い

松本酒造株式会社 様

日本酒のあるべき姿とは

—— 現在、 松本酒造では球形精米を採用いただておりますが、 勝木先生は以前から扁平精米にも注目していると伺いました。

勝木  扁平精米自体は、もう30年以上も前に論文が発表されています。私たち業界としては注目すべき方法だったんですけど、残念ながら顧みられることはありませんでした。では、なぜ今注目されているのか。それは、限りなく精米歩合を下げていくことに、どれだけの価値が上がるのかということが、再度、問われはじめたからなんですね。そこで、精米歩合を追いかけなくても価値がある扁平精米に関心が寄せられたと。

扁平精米の精米歩合60%は球形精米の精米歩合40%と同じぐらいですよね?それを秋田県の新政酒造、特にああいう影響力のある方がはっきりそう言っていることが一つのブームのきっかけだと思います。もちろん先発する広島の富久長さん(今田酒造)とかいろんな方の努力があって再び扁平精米に日が当たっていると思います。
—— 扁平精米の課題として、低精白(精米歩合60%まで)だと胚芽が残り、高精白(精米歩合50%以上)だと砕米が増えるのですが、勝木先生はこの点についてどのようにお考えですか。

勝木 たしかに扁平精米用の砥石では、胚芽を取ることは難しいですよね※1。ですから、一次精米※2と併用するということも一つの考えかもしれませんね。

あとは、扁平精米も削ればいいという問題ではないので、どの部分をどんなふうに削ればいいのかといったことをみんな模索していると思います。多分、入り口の組み合わせとしては、球形精米で精米歩合50%の麹米を造って、残りの8割ぐらいの掛米を精米歩合65%の扁平精米で造るというのが最初の入り口でしょうね。


※1 低精白の扁平精米は胚芽が残りやすい
※2 一次精米とは、 醸造精米の前に、 赤糠と胚芽を摩擦式精米で取り除くこと
—— 最後に勝木先生にとって日本酒とはどのような存在ですか。

勝木 「柔よく剛を制す」じゃないですけど、主役ではないけど必ずその中に「あ、 いたね」とさりげなくいる。 私たちが国内で飲める、優しくて近くにいる存在ですね。料理屋さんにしても家庭で飲まれるにしても、果たして日本酒は主役なのかというと、多分違いますよね。その場をどう維持するのか、雰囲気を維持するのか、どう繋いでいくのかということが日本酒の役割だと思います。

たとえば、日本の伝統的なスポーツの中で柔道がありますよね。柔道というのは体力と力が強い人が勝つんではないです。相手の力を利用して相手を倒すということになるわけですから。日本酒も料理という主役をいかに脇役として役立たつのか。これが私の考える日本酒の姿ですね。

-Epilogue-

顔いっぱいに皺を寄せて笑う勝木氏。周りもつられて自然と笑顔になる。勝木氏に意見を求めて全国から醸造関係者が門を叩く理由を知るべく、勝木氏を訪ねたところ、その答えはすぐに見つかった。問われれば惜しむことなくこれまでの自身の経験や見識を伝える。若手に刺激を与え、また自らも挑戦を続け、常に「今」を全力で生きる。表情からも伝わるその懐の広さは、我々の想像を遥かに凌駕する。常人には踏み込めない世界。職人とは、まさに勝木氏のことである。