大橋 奈央2021.04.12

生涯をかけて日本酒の道を歩み
物事の神髄を見極める勝木氏の思い

松本酒造株式会社 様

原料に勝る技術はない

—— 勝木先生は日本酒造りだけでなく、原料である酒米づくりにも積極的に介入されていますが、なかでも山田錦に注目されている理由を教えてください。

勝木 まず、原料というものをはっきりさせないといけないんですけどね。 原料は2つありまして。「水」と「米」です。今、全国に酒蔵が1000軒以上あるんですけど、あちこちに散らばっている理由は、各地の水が良かったからですよね。そこに地域の米があるというのが、全国に酒が花開いている理由です。そのなかでも特に私たちが注目しなくてはならないのが、酒米の山田錦。それも兵庫県の山田錦です。

実際に酒を造ってみたら分かると思うんですが、兵庫県の山田錦っていうのは、私たちは米を選んだつもりなんですけど、実は米に選ばれていまして。本当に良い兵庫県の山田錦は、米の方が強いので、簡単には良い酒を造れないんです。その壁を超えるととても良い酒になります。この壁というのは技術の差ですよね。 造り手が持っているノウハウやセンスです。

私は30年以上、佐賀県嬉野市塩田町で山田錦を育て、その米を用いて酒を造っていまして。いまさらですが、山田錦の本場・兵庫県でどのように山田錦ができているのかっていうことを、もう一度基礎から勉強したいと思い、米から酒造りに取り組んでいる京都の松本酒造でお世話になることにしました。現在、兵庫県加東市の東条地区で山田錦の栽培にも取り組んでいます。
—— 同じ山田錦でも、環境が異なると性質や品質が変わるのですね。造り手のセンスがあれば、どの原料でも美味しい日本酒が造れるというわけではないのですか。

勝木 それがですね、技術があればどの米でも最良の酒が造れるわけではないんですよ(笑)。まさに、「原料に勝る技術はない」ということですね。これは私の恩師である永谷正治先生の言葉なんですけど、「技術じゃない。米だよ、水だよ」ってことを言っていて、技術はそれをどう使いこなすかってところにあります。つまり、「万能な技術はない」ということですね。

じゃあ、その良い米というのはどういうことか。これは、卵が先か鶏が先かという話と一緒なんですけど、「良い米があるとして良い酒ができる」のではなくて、「良い酒ができるのが良い米」なんですよ。では、 良い酒とは何か。これを決めるのは、我々造り手ではなく、あくまでも消費者ですよね。この酒にいくら払う価値があるのか。誰と飲むのか、どういう状況で飲むのかで買う人の気持ちは変わってくるわけですから。
—— 話は変わりますが、松本酒造では、2018年よりサタケの精米機をご導入いただいておりますが、使用感はいかがですか。

勝木 まず、精米機の性能を評価するときに何が一番肝心かというと、やはり時間です。どれだけ早く精米できるか。もちろん正確にどう削れるかっていう評価も非常に大切ですよ。

そもそも米を削るには、ある程度の直径、つまり周速度がいるんですね。要するに周速度を稼ぐためには回転数を上げなくてはならない。そこで、今回サタケは、大きすぎず小さすぎない24インチの砥石で挑んでいると。さらに、いわゆる焼き物の砥石から合成の鉱物の砥石「cBN砥石」を採用して新しい精米機をつくると聞いて、非常に興味を持ちました。実際に見て、精米をして、時間も短く削れ具合も本当に素晴らしいと思いましたね。

※周速度とは、ある回転をする物体のある表面が回転軌道上(円周上)をどのくらいの速度で動いているのかを現したもの